ワープする宇宙 Warped Passages  リサ・ランドール

リサ・ランドール博士の5次元宇宙に関する本です。2005年に初版が出ました。私は最近までこのリサ・ランドール博士の事を知らず、NHKの番組で出演しているの見て初めて知りました。

それで最近でた宇宙の扉をノックするの前に前著作を読もうと思い、図書館で借りました。

余剰次元というので、リサ・ランドール博士が、超ひも理論の学者かとばかり思っていたのですが、伝統的な素粒子理論のモデル構築派であることが分かりました。また、所属のハーバード大学は、そうした学者の牙城になっている事を知りました。

ブレーンや5次元宇宙の話は超ひも理論を前提にするのだと思っていたのですが、それと切り離してブレーンや高次元宇宙のモデル構築は可能であり、これで重力の弱さをうまく説明できそうだ、というのは私に取って新たな知見でした。私が院生をしていたころには量子重力理論や2次元重力の研究などがあった気がしますが、当時はあまり関心がありませんでした。

本の中身自体は、気軽な教養書というよりは、「数式を使わない最新理論までの概説」という感じでありガッツリと書かれていていい加減に読み進む事が出来ず読了するのに20日程かかりました。

目次です。

序章 なぜ見えない次元を考えるのか。
1部 空間の次元と思考の広がり
 1 入り口のパッセージ ー次元の神秘的なベールをはぐ
 2 秘密のパッセージ ー巻き上げられた余剰次元
 3 閉鎖的なパッセージ ーブレーン、ブレーンワールド、バルク
 4 理論物理学へのアプローチ

2部 20世紀初頭の進展
 5 相対性理論 ーアインシュタインが発展させた重力理論
 6 量子力学 ー不確からしさの問題

3部 素粒子物理学
 7 素粒子物理学の標準モデル ーこれまでに分かっている物質の最も基本的な構造
 8 幕間実験 ー標準モデルの正しさを検証する
 9 対称性 ーなくてはならない調整原理
 10 素粒子の質量の起源 ー自発的対称性の破れとヒッグス機構
 11 スケーリングと大統一理論 ー異なる距離とエネルギーでの相互作用を関連づける
 12 階層性問題 ー唯一の有効なトリクルダウン理論
 13 超対称性 ー標準モデルを超えた飛躍

4部 ひも理論とブレーン
 14 急速な(だかあまり早すぎてもいけない)ひものパッセージ
 15 脇役のパッセージ ーブレーンの発明
 16 にぎやかなパッセージ ーブレーンワールド
 
5部 余剰次元宇宙の提案
 17 ばらばらなパッセージ ーマルチバースと隔離
 18 おしゃべりなパッセージ ー余剰次元の指紋 
 19 たっぷりとしたパッセージ ー大きな余剰次元
 20 ワープしたパッセージ ー階層性問題に対する解答
 21 ワープ宇宙の注釈付きアリス
 22 遠大なパッセージ ー無限の余剰次元
 23 収縮して膨張するパッセージ

6部 結びの考察
 24 余剰次元 ーあなたはそこにいるのか、いないのか
 25 結論 ー最後に

本は600頁ありますが、この中で第2部の相対論、量子力学のところまでで200頁、素粒子物理学の標準モデルと超対称性の話で370頁、超ひも理論とブレーンで450頁となり、そこからようやく余剰次元の話となります。

この辺りの分野について何にも知らない人が読んで「なるほど」とすんなり理解できるとは思えません。ブルーバックスを2、3冊読んでから読むとそれをより緻密にしかも理論になるべく忠実な説明になっているので理解が深まると思います。ただ、数式は出てこないのでそれがどういう事なのか、ということを理解するためにはちゃんとまじめに電磁気学から順を追って勉強していく必要がありますが、その意味を知る上ではよく書けた本だと思います。

また、研究者として余剰次元についての研究がどのように進んだのかが書かれていますが、この辺りは米国の研究者の仕事の仕方、それに関連する物理学者やどんな大学にどんな先生がいるのかがライブ感のある形で伝わってきます。将来素粒子物理学を専攻したいと思っている人にはどういった生活になるのかが分かって良いのではないかと思います。

大学の教養科目でこうした本をベーストした講義があると、物理を専門にしたい人には将来の専門を考える上で良いのと、文型の人にとっても物理の最前線はどのような世界かを知る事が出来てよいのではないでしょうか。

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