以前、イプシロンデルタという本を紹介しました。
これは、高校の理系数学でやる数IIIから大学の本格的な解析学に移行する際のいわゆるε-δの考え方フォーカスしてその考え方をマスターするための本で対象読者は数III(微分積分)が終わって進んだことの知りたい高校生を想定した内容になっています。
今回紹介する本は、同じ著者「田島一郎」氏なのですが、基本的な対象は高校生ではなく大学1年生だと思います。書き方は大学の教科書の体裁になっています。中身は、高校の数IIIの微分積分で直感的な議論で済ませていた部分について、ごまかすことなくかっちりとε-δの考え方、実数の連続性、連続関数、導関数、積分、一様連続と、1変数関数ではありますが丁寧に書いてある本です。B6版で300頁弱の本でハンディに持ち運ぶこともできます。
解析概論や東大出版会の解析入門、小平先生の解析入門など、他の著名な本は解析学の分野ではいろいろあるのですが、とりわけこの本は初学者でまだ厳密な解析学の思考法に慣れていない大学1年生の方に対して、かみ砕くようにして説明がなされています。
<目次です>
第1章 極限
1-1 イプシロン・デルタ
1-2 数列の極限値
1-3 関数の極限値
1-4 数列と関数の関係
第2章 実数の連続性
2-1 切断の考え
2-2 上限・下限
2-3 いろいろな数列
2-4 コーシーの収束条件
2-5 実数の非可付番性
第3章 連続関数
3-1 連続関数の定義
3-2 閉区間における連続関数
3-3 指数関数と対数関数
第4章 導関数
4-1 微分可能性
4-2 平均値の定理
4-3 平均値の定理の応用
4-4 いろいろな例題
第5章 積分
5-1 積分可能性
5-2 積分の性質
5-3 広義積分
5-4 いろいろな例題
第6章 一様連続
6-1 級数の収束・発散
6-2 べき級数
6-3 関数列と一様収束
6-4 級数と一様収束
第1章で、いわゆるε-δの話が書いてあり、高校数学からどう違うのか、また論理記号の使い方も丁寧に説明されており、ここは読めばそのまま素直に分かると思います。第2章の実数の連続性のところで、デデキントの公理(実数の切断)、上限・下限の存在、有界単調数列の収束、区間縮小法+アルキメデスの公理の同値性が示されていて、コーシー列、集積値と位相でも基本となる考えが出てきます。ただし、この本では位相的な考えは前面に出てこず、あくまでコーシー列どまりです。
第3章3-3で、連続関数と2章での議論をベースにこれまで直感的にすましてきた指数関数の連続性を証明します。ここではじめて10のルート2乗とかが存在してWell-definedになることが言えるようになり、高校数学で2の1乗、2乗、と整数値だけのグラフを「勝手に滑らかに」つないでいた操作が正当化されます。
後面白かったのは第5章の積分でダルブウの定理で下極限と上極限で、xの分割を細かくするとその極限が一致してリーマン積分がWell-definedされるところですね。第6章は一様収束で関数列の議論があって極限操作と微分演算がどういった条件のもと交換可能か、という議論があります。
この辺りが他のどの本と比べても丁寧にかつ行間が飛ばない形で書いてあります。入門書のように難しい個所を飛ばしたりごまかしてやさしいわけではありません。大学の教科書なので、厳密な議論が展開されているので、この本で1変数関数について理解が進めば、他の著名な解析学の教科書を読んでも扱っている内容が同じなので分かるようになると思います。ただ、行間が飛んで分かりにくかったり、厳密すぎて論理が追えない本もある中で、この田島氏の解析入門は、初学者でも1か月くらいかけて通読すればわかった気になると思います。
私はこの本を2,3度読み込んで理解できたという実感を持ってから、東大出版や小平先生の解析入門を読みました。以前は難解だと思っていた記述が、クリアに分かるようになりました。確かにこれらの著名な教科書からいきなり読み始めても大変だと思います。
数学に興味のある数IIIの終わった高校生でも、若干骨があるかもしれませんが、計算が理解できていればあれば、この本をじっくりと読むことによって大学での数学のイメージを持つことができるのではないかと思います。これを読了したら「解析概論」や上記本へのスムーズな移行ができると思います。
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