ルベグ積分入門ー吉田洋一

1.動機

物理で量子力学をやると抽象空間として複素内積空間であるヒルベルト空間がでてきて、連続自由度にすると無限次元ヒルベルト空間となります。

物理学徒だった私は、こうした無限次元ヒルベルト空間での操作がWell-definedなのかどうかは気にせずに、通常の線形代数のように演算できることをよしとして、その使い方について習熟するという姿勢でした。

これが収束して完備であることをちゃんと説明するには、関数解析の考え方とルベーグ積分が必要ということは学部時代から知っていたのですが、当時は数学は道具として使えればいいと考えていたので、なんとなくもやもやとしていたものもそのまま時が過ぎていました。

社会人になり物理、数学学び直しをして数学も解析学分野の教養課程の微積分まで進んだところで、確率微分方程式と関数解析を数学的にちゃんと理解したいと思い、それにはまずはルベーグ積分ということで本を物色し始めました。

高木貞二の解析概論にもルベーグ積分がでてますが、さっぱりしすぎてよく分かりませんでした。わかるようになってから読むとなるほど、簡にして的を得ていると思うのですが、当時は無理でした。、有名なものには伊藤清三先生の「ルベーグ積分入門」がありますが、いきなりこれはハードルが高く、まずは志賀浩一先生の「ルベーグ積分30講」から始めました。

この本を何度か読んでなんとなくイメージが分かってきたところで図書館、本屋、Amazonのレビューを読み漁ってこれがよさそうとして手に入れたのがこの吉田先生の本です。

私が手に入れたのは培風館の新数学シリーズでしたが、最近ちくま学芸文庫から文庫本の形で出ており、これもコレクター的観点から専門書では格安だったので即買いしました。数学書を文庫本で読むのはちょっと違和感がありますが、このちくま学芸文庫からは数学、物理の古典も出ていて低廉な価格で入手できるのはありがたいところです。

2.コメント

この本は大学教養課程の微積分が分かる力があれば、読み進めることができます。それ以外の前提知識も要求されず、1変数の微積分から多変数、そしてそれを抽象化と段階を経ているので、公理主義的な書き方ではなく泥臭さもあるものの手触り感があって私にはわかりやすかったです。この本で抽象的な測度空間の構成まで理解してから他の本を読むと、確かにすっきり書いてあるのが腑に落ちますが、初めからそれだとわからなかったので、この本に助けられました。

<目次>

  1. 序説
  2. 実数・点集合・函数
  3. ルベグ測度
  4. 可測関数
  5. ルベグ積分
  6. 微分法と積分法
  7. 多変数の函数の積分
  8. 測度空間
  9. 測度空間における集合函数
  10. 直積測度空間とFubiniの定理

この1の序説のところにルベーグ積分の動機づけとして、連続関数、リーマン積分の微積分の簡単な復習があり、ここからx方向の区間分割での積分は不連続な点があまりにたくさんあるとうまくいかず、代わりにy軸方向に切り方を変えてyがある範囲内あるxの一定の点の集合を集める操作をして、ルベーグ積分の値にする、このために「測度」という概念が出てくる、というのが説明されており、非常に分かりやすかったです。「ああっ、そういうこと」という腑に落ちた感覚がありました。

2のところは、イプシロンデルタや集合・位相の復習で解析が分かれば問題なし。

3が私にとっては肝の部分で、外測度の導入、定義、可測集合、ボレル集合、測度と、一つ一つの説明、証明は追いかけることができるのですが、全体としてはぼんやりとしか理解できず、ルベーグ積分30講と行ったり来たりして何度も読み返していました。志賀先生の方が通常の長さ、面積の感覚から段階を踏んで抽象化を進めていますが、2つを合わせ読んでみると、吉田先生の方が説明がすっきりとしていると思いました。

分からないなぁと思いつつ、2,3か月したらそれまでぼんやりしなかったことが頭に沈着したのかあ割と普通のことに思えるようになって先に進めるようになりました。最終的には具体的な長さというような目に見えるものから、測度に関する部分を抽象化して取り出して可測集合を定義して概念操作することになじんできて分かった気になるようになりました。

そこからは早くて、可測関数、ルベグ積分の話はスムーズに理解することができました。この具体的な概念から抽象的な概念い思考を上げることに自分が慣れるのに相当時間がかかりました。ここで項別積分、Fatouの定理と進み、ルベーグの項別積分定理に至ります。これはリーマン積分に比べてルベーグ積分の方が扱いやすい定理の一つです。この定理が段階を踏んで理解できたのは賢くなったという満足感がありました。

6章の微積分はいまいちご利益が分かりませんでしたが、7章で出てくるFubiniの定理が一つの到達点となります。

8章では、これまで具体的な1変数を事例にとって説明されたルベーグ積分の考え方を抽象的な測度空間で改めて説明する章となっています。ここまでついてこれたら改めて抽象的な測度空間の説明も頭に入ってきます。9章で加法的集合関数、Radon-Nikodymの定理があるのですが、この辺りは証明は分かるのですが、正直御利益がよく分かりませんでした。確率論でもでてくるのでこの辺りの本質的意味がすっきりと分かるようになりたいと思っています。10章はFubiniの定理を抽象的な測度空間でやりなおすものです。

ルベーグ積分30講と合わせてこの本で4-5か月ほど何度も読み返し、なんとなくわかるというので進んでは戻り、少しずつ理解できるようになり、最後には、「大体わかった」というところまで行きました。

3章4章5章辺りを読んで理解できれば最低限のコンセプトは分かると思います。いったんこれで慣れたところで、私は伊藤清三先生のルベーグ積分入門に移行しました。

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