高校数学でわかるボルツマンの原理 : 熱力学と統計力学を理解しよう (ブルーバックス)

ブルーバックスのシリーズで熱力学と統計力学を説明している本があったので図書館で借りて読んでみました。

熱力学については、高校物理でカルノーサイクルあたりまでやってしまっているので後は各種エネルギーの話とルジャンドル変換、エントロピーの意味が分かればだいたい大丈夫となる訳ですが、この本は特にU,H,F,Gの各種エネルギーがどのような条件で使われるのかについて書いてあり、この部分については分かりやすいのではないかと思いました。

著者の専門が半導体とのことで、ヘルムホルツの自由エネルギーやギプスの自由エネルギー、ケミカルポテンシャルなどについて説明がなされているところが物理の本にしては珍しいと思いました。私は、熱力学の勉強を初めてしたときに、この各種エネルギーを定義してそれぞれ変数を取り替えて使う意味がよくわからず、何のためにこんな事をするのか?と思っていたのですが、化学の授業というか、バイト先で化学を教えていた際にエンタルピー(H)の話をし、それぞれ定積や、定圧、等温等の各種条件においてエネルギーの定義を取り替えると便利という事が分かって腑に落ちたことがあります。この辺りは実際に実験をしたりするとよくわかるのだと思いますが、かように、熱力学については始めになんおためにそんな変形をするのかが分からなかった事もあり、この本はその辺りについて触れているので良いと思います。

後段の統計力学の部分は、気体分子運動論までは高校物理でやっているんのでそれをそのまま焼き直しているのだけですが、分配関数を導くためのスターリングの公式やそれと速度空間における積分から分配関数を求めるあたりは、基本的に大学の教科書と書いてある事は変わらず、その説明ぶりが若干高校生向けに気を使っているというものになっています。大学の教科書だと無味乾燥に書いてあるところを若干趣旨も交えて書いてあるというところでしょうか。

私は知っているのでいわゆるオチを知って読んでいるので違和感はないのですが、初学者が読もうとすると少しゴールに向かう事に何のご利益があるのかが見えづらい点が辛いかなと思いました。この分配関数で物理的な統計値の実例をいくつか見せるといいと思います。

数学的には、偏微分と変数変換位なので、電磁気学や量子力学を高校数学プラスアルファで説明するのに比べてそんなにハードルが高い訳ではないです。後はその意味付けとどうしてそんな事をするのか、という点がもう少し高校生向けに説明があると良いのではないかと思いました。

大学1、2年生向けの単位を取るための本と、学部向けの専門書はありますが、意味付けをお話でなくちゃんと数式をある程度使いつつ説明している本は余りないのでその点ではチャレンジングな取り組みではないでしょうか。

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